今年度の数学部会の見学研修会は,平成24年8月7日(火)に総務省統計研修所において実施され,県内の各高校から60名の先生方が参加されました。その内容の概略を報告します。
1 はじめに
今回の見学研修会は,総務省統計研修所のご協力により県外で実施されました。午前の部は,総務省内に併設されている統計資料館と独立行政法人統計センターの施設見学と総務省統計局統計調査部調査企画課職員による講義を受講しました。午後の部は,総務省統計研修所上席研究官と総務省統計局統計情報システム課職員による講義をそれぞれ受講しました。
2 施設見学(40分)
(1)統計資料館
この資料館は,統計局創設120年を記念して平成3年10月18日(統計の日)に開設されました。館内では,統計調査の歴史や仕組みなどをパネル等で紹介するほか,明治初期からの統計に関する貴重な文献や第1回国勢調査の記録資料・用品をはじめ,(社)情報処理学会情報処理技術遺産として認定した我が国初の統計集計機である「川口式電気集計機」と,同機で使用した入力用カードを作成する「亀の子型穿孔(せんこう)機」などの古い集計機器が展示されていました。
(2)統計センター
このセンターでは,国勢調査や消費者物価指数など国の基本となる統計の作成,各府省や地方公共団体の委託による各種の統計作成を行っている所です。セキュリティ強化のため,職員の中でも特別な許可を受けた人しか入室することができない,調査票の読み取り装置とチェックを行っている部屋や国勢調査等の調査票を厳重に保管している保管庫に許可を得て見学することができました。
3 講義(午前の部35分,午後の部90分と75分)
(1)「統計の意義と役割」
講師:総務省統計局統計調査部調査企画課 小松 課長補佐
①統計とは?「一定の条件で定められた集団について調べた結果を,集計・加工して得られた数値」であること。統計のかたちには,「数値・グラフ・集計表・統計地図」があること。統計の歴史は,「国家が租税徴収などの基礎資料として,人口や農業生産高などを調べたことに始まる」と言われ,統計(Statistics)の語源が国家からきていること。
②公的統計とは,統計法第1条(目的)に「国民にとって合理的な意思決定を行うための基盤となる重要な情報」と定義されている。公的統計の役割は,行政機関による利用と民間による利用がある。総務省統計局の統計調査は,個人・世帯を対象とする調査と事業所・企業を対象とする調査がある。
③公的統計の作られ方は,「企画・設計 → 調査の実施 → 集計 → 公表」と進められる。
④統計教育の重要性について,「統計がどのように作られるのか。統計はどのように表すことができるのか。統計をどのように解釈すればいいか。」を身につけることによって,統計の「基礎」がリテラシーにつながり,「気付き」へのきっかけになる。(世論調査,一世帯当たりの貯蓄額を例に説明された。)
(2)「授業に役立つ事例 -統計データの探し方,見方」
講師:総務省統計研修所 小林上席研究官
①公的機関(国の府省,地方公共団体等)が作成する統計は公的統計と呼ばれる。国が作成する統計は,平成23年度末現在で,基幹統計が56,一般統計が260ある。統計調査と統計データの理解のためには,使われている用語の定義を知ることが統計の誤解・誤用を防ぐ。
②統計表の読み取りかたについて,一般的な統計表を例に,統計数字の見つけかた,実習が行われました。
③統計情報の探しかたについては,統計情報の探索の一般的な手順,書誌情報や総合統計書の種類,「政府統計の総合窓口(e-Stat)」を利用するとよい。
④調査報告書の構成は,「調査の概要,結果の概要,結果表,調査票様式,参考/付録」で作られているのが一般的である。
⑤統計情報利用時の留意点は,報告書に掲載されている統計は多種類なので,利用目的にかなった統計を用いることが必要。結果表で使用されている区分をその用語の語義の常識的な解釈で判断してはならない。同じ用語でも調査によって意味が違うことがある。報告書で用語が明確に定義されていても思い出し記入による調査事項の回答は利用にあたり注意が必要。区分や分類基準は変更されることがある。他の区分と比べて特異な数値や時系列で見て特異な動きを示している数値がある場合には,調査方法の変更,調査事項に関する制度変更に起因することがある。都道府県より上位の地域区分(通常,「地方」という)による集計がある場合は,調査によって地方の範囲が異なることがあるので注意が必要。統計調査の結果得られたデータを解釈する場合,探している数値が掲載されている統計表が見つかっても,その統計数値だけ見ていると解釈を誤る場合がある。可変単位地区問題(集計に用いる地理的な単位の設定の違いが分析結果に影響を及ぼすという地理学ではよく知られた問題)にも注意。
⑥平成22年度国勢調査産業等基本集計結果から,実例による度数分布と箱ひげ図の説明。
(3)「授業に役立つ資料づくり」
講師:総務省統計局統計情報システム課 原田 係長・古市 係長
総務省統計局のWebページ上で紹介されている,「政府統計の総合窓口(e-Stat)」を実際に受講生がコンピュータ上で操作しながら,「データベース機能」を使って,次の内容を実習しました。
①産業別就業者数を都道府県別に比較するためのグラフの作成。
②産業別就業者数を千葉県内市町村別に比較するためのグラフの作成。
③都道府県別に10歳以上を対象に「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌行動者率」と「インターネット利用行動者率」の相関を見るための散布図の作成。
④千葉県内の市町村別に「人口総数」と「事業所数」の相関を見るための散布図の作成。
<参考> 「政府統計の総合窓口(e-Stat)」のアドレスは,http://www.e-stat.go.jp です。